LASIK実況生中継その3
さっそうと登場したニデック5000エキシマレーザー装置。
エネルギーを120%充填すれば、拡散波動砲のひとつでも発射出来そうな、勢いのあるネーミングです。
特に変形合体したり、怪人と戦ったりはしないそうですが、
それについての不満は一切ございません。
世界平和はひとまずこちらに置いといて。こたつMkUの角膜を、ほんの数十μm程度
正確に削って頂ければ、それでもう十分満足でございます。はい。
さて。前述の
真紅の光と
緑色の光。
たしか、赤い光がウルトラマンで、青がベムラーだったよなー。うんうん。
などと!などとのんきな事言ってる場合ではありません。
この真紅の光点こそが、LASIK手術における最大のキーポイント。
被術者にとって、この上無く重要な意味を持つのです。
かつて、こたつMkUの友人Mは、超高級焼肉チェーン店の煤けた天井を見上げ、こう呟きました。
手術中、
赤い光を死ぬ気で見続けたよ、見続けたよ つづけたよ…(エコー)と。
そして偉大な先達者達も、異口同音に貴重なお言葉を残されております。
光ぢゃ。赤い光から
決して眼を逸らしてはならぬ。
ちなみに、この真紅の光。光源は発光ダイオードか何かだろうと思います。
決してエキシマレーザーそのものではありませんので、どうぞお間違え無き様。
(勘違いなさっていた方が、お二人程いらっしゃいます)
やっぱりね。おかしいと思ったよ。レーザー光は(通常の大気中では)不可視の筈だもんねとか、
そもそも、それ以前の問題でございますよ?
常時照射中のエキシマシーザーを見続けたら、ああた。角膜全滅間違いなしです。
じゃあさ。何のための光なの?
って、今更何のためもクソもありませんね。(まっ。お下品)
言うまでも無く、眼球の定位を図る為です。
息を止め、歯を食い縛り、一点を凝視することによって、自らの眼球を、
ひいてはエキシマレーザー照射面を(自力で)固定するのです。
こたつMkUも、この真紅の光点の凝視こそが、LASIK手術における
最大のイベントであると
心得ておりました。
何せ、自分自身の努力が、手術結果の良否に直接反映されるのです。
ここで頑張らない手はありません。
へっ。お任せくだせぇ、田内親分。こたつMkUも、漢(オトコ)でござんす。
一発見事に決めて見せやすぜ。
悪いが、バージョンアップ済みのオートトラッキングとやらに、出番はありやせん。
はい。もう、意気込みだけは十分でございます。
―ひとつ注釈を―。
手術中、と言うか開瞼中、瞬きは一切許されません。
心情的な可否はともかくとして、そもそも瞬きしようにも、物理的に不可能なのです。
何をいまさらと、おっしゃるあなた。今ひとつ状況が飲み込めてませんね?
えー。それでは試しに、目を開いたまま、壁の時計の秒針でも眺めて見て下さい。
1、2、3…。はい。どうです?
通常、ものの10秒足らずで激しい痛みが訪れ、早急な瞬きを要求してくる筈です。
翻って、実際の手術(開瞼)時間は、片眼、少なくとも10分から15分。
エキシマレーザーの照射時間だけ見ても、30秒から50秒前後はかかります。
普通に考えれば、その間じっと瞬き無しでいられる道理がありません。
…ありませんが。…それがねぇ。
何の苦痛も無く、じっと目を見開いていられるから、不思議です。
事前の点眼麻酔の効果…なのでしょうか。残念ながらこたつMkUにも確証はありません。
LASIK手術中は、純水(あるいは蒸留水)で眼球を盛大に洗ったり、さらにはスタッフの方が
目薬(人工涙液)を適時供給してくれます。まことにありがたい事です。
ただ、どう考えても10秒以内の短いインターバルで頻繁に、なんて事は無かったと思うのです。
(やや自信なし)
このように謎は尽きませんが、ともかく、瞬きに関する心配は一切不要ですので、どうぞご安心下さい。
この世には科学で説明できない事が沢山あ.るのでございます。
『角膜切除厚、右58μm。左58μm。球面照射のみ(違ってるかも)。
レーザー照射時間右30秒。左30秒(多分)』
スタッフの方が、はっきりとした声でデータを読み上げました。
エキシマレーザー装置にプリセットした数値の最終確認です。
ニデック5000エキシマレーザーの照射スケジュールは、全てコンピューターによって制御されます。
ですので、データが正しく入力され、かつ機械の動作が正常なら、
レーザーによる近視矯正手術そのものは自動的に成功します。
逆に、この初期入力値が間違っていれば、それはそれはヒドイ事になってしまいます。
こたつMkUは、この時点で初めて、自分の角膜をどのくらい削るのかを知りました。
58μmかぁ。最高視力を希望したら、60μmくらいだったのかな。
今となっては、神のみぞ知る、ですね。(…神でなくても執刀医は知ってると思うぞ)
『負圧をかけて、目を固定します。視野が暗く感じるかも知れません』
田内先生の言葉が終わらぬうちに、右目に、何か輪っかのようなものが触れました。
低い作動音と共に、眼球がぐいぐい天井方向に引っ張られます。
感覚としては、ちょうど掃除機にかざした手のひらが吸い込まれるような感じです。
声で表現するなら、あだだだっ って感じがぴったりです。
ふうむ。これは、事前のリサーチや予備知識がないと、多少うろたえてしまうかも知れません。
意外な、と言うか、眼に掛かる力とすれば、結構な強さです。
同時に、視界が暗くなりました。
血流が阻害されることによって引き起こされる、一時的なブラックアウト現象です。
しかし。極度の緊張のせいでしょう。苦痛らしい苦痛は感じません。
この程度のことにいちいち構ってはいられないってのが、状況分析として的を得ていると思います。
さあ。薄暗い闇の中にも、赤い光は敢然と輝いています。
何が起ころうと、今はコイツから決して目を離してはなりません。 心を落ち着け集中します。
こたつMkUの右目横に、何か機材が置かれるのが分かりました。
皮膚感覚で、ある程度のずしりとした重さを感じます。
『では、右目のフラップを作ります。そのまま赤い光を見ていて下さい』
フラップ作成。いよいよ角膜を切ります。
改造人間への後戻り出来ない道へ、足を踏み入れるのです。
ゆうくん(♂4歳)、あーたん(♀2歳)。とーたまは仮面ライダー555になるんだよ?
とーたん、すごい! しゅごい。 …ああ。耳元で子供の声が…。
はっ。ダメです。いけません。弱気になっては負けです!眠ったら死にます!
ここで、ふと気付いた事があります。
マイクロケラトーム(電動メス)は右目の外(耳)側にセットされてます。
出発点が外(耳)側ってことは、つまり、
フラップのヒンジは眼球向かって内(鼻)側に作られる訳です。
…いや、まぁ。だからどうという訳ではありませんが、
術後のドライアイ対策として涙腺の機能を温存するため、内側にヒンジを作ったほうが良い、
との意見もあるようです。
実際に体験した者の率直な感想としては、単にレールの走行の問題だけかな、という気がします。
外(耳)→内(鼻)方向は障害物が最も少ないですから。
ううむ。しかし、この期に及んで、このような仔細な観察による発見。あまつさえ考証までやってのけるとは。
我ながら沈着冷静ではないですか。ほほほ。
実はこの時点で、こたつMkUは、LASIK手術に対する
奥義を、おぼろげながらも
会得していたのでした。
必殺奥義。知りたいですか?後学の為に。 ねぇ、知りたい?
では。特別にお教えしましょう。
それは!
流れに身を任せること。
人間,苦難に挑戦すると、得るものも多いですねぇ。
この奥義。こたつMkUの、今後の人生そのものになりそうな予感がします。
−って、なってどうするねん!(奥義その2。自己突っ込み)
トップページへ戻る