LASIK実況中継

近年、感染予防効果はほとんど無いとされていながら、
何故かどの病院も使い続けている緑色の粘着マットの手前で、スリッパを履き替えました。
間違っても髪の毛なんかが眼に入り込まないように、頭部は紙製のキャップで覆います。

いよいよ禁断の領域(管理区域)へと足を踏み入れます。
大きな金属製のスライドドアが開くと、そこはまるで手術室!
って、あたりまえ?
だってだって、ホームページで見たときは、もっと明るくておシャレで気軽な
雰囲気だったのにぃ。
滅菌布で覆われた機材と黒い手術台が、ホームページの写真とはまるで別物の
重苦しいプレッシャーを与えてくれます。

LASIK手術に直接係わるスタッフは、執刀医を含めて総勢4名(多分)です。
手術台に横になり、頭を指定の位置を合わせると、あらま。足首から先が余りました。
こたつMkUの身長は182cmです。
安ホテルのベットではいつも苦労してますが、まさか手術台でも足が宙に浮くとは思いませんでした。
どうすべ?これ。
いやいや、ここで慌ててはイケマセン。平常心です。心を落ち着け、力を抜きます。
今こそ,日頃射撃で培った集中力で、明鏡止水の境地を…。
『はい、こたつMkU様。これどうぞ』
へ?
スタッフから意外な物が手渡されました。
それは、手術室には全く似つかわしくない、犬の縫いぐるみ。
推定価格500円くらいの、白く小さく、柔らかいワンちゃんです。
……あの。なんスか?これ。
『一応持ってて下さい。要らなかったら、ベットの横にでも落としといて構いませんから』
…はぁ。
緊張をほぐそうと、ウケ狙い?もっ、もしやお嬢さん、個人的な贈り物とか。
いずれにせよ、今現在の状況下では、どう考えても必要な物とは思えませんが、
でもまあ、念のため。
両手で持って、お腹の上に置いておきます。

いよいよ田内先生の登場です。
あ、センセイ、どーも。本日はお日柄も良く―
ご挨拶もそこそこに、まずは、手術前に絶対必要不可欠な手順である本人確認です。
『こたつMkUさん、で間違いありませんね?』
はい。間違いありません。
きっぱり端的に答えます。自信満マンです。当たり前です。
続いて、執刀医である内田医師とスタッフが、各種データの再確認をして行きます。
皆さん、しっかりと声を出して復唱します。きびきびとしていて、気持ちいいです。
さあ。
ついにLASIK手術が始まりました。

まずは、頭の、と言うか両眼の正確な位置決めです。
ちょい上。少し右向いて。うーん、ちょっと左かな。はい、そのままで。
やけに念入りな調整です。
はっっ!
こたつMkUは、ここで極めて重要な事実に気が付いてしまいました。
そう。いくら高性能なエキシマレーザー装置やオートトラッキングがあっても、
手術台での両眼の水平面が正確に出てないと、全く意味がありません。
つまり、顔が傾いてたら、眼球が正確に℃ホめに削れてしまいます。
さーっ。音を立てて血の気が引きます。
いっ、良いんすかセンセイ、手作業かつ目視なんかで位置決めして。
しかし既に、両眼の水平は、執刀医からOKが出ています。
こうなったら、以後は手術終了までぴくりとも動くわけには参りません。
『では頭を固定しますね。首の周りが硬くなります』
言われた通り、首の周囲のエアバックが膨らみ、硬くなりました。
ほっと安心…したのも束の間。これって、あまりしっかりとは固定されてないんじゃ…。
動こうと思えば、多分簡単に首が回ります。

『それでは、顔を滅菌シートで覆います』
ただでさえ不安定な顔にシートが掛けられました。
『目の部分にフィルムを張ります』
両眼の丸く空いた部分に、刷りガラスのような滅菌フィルムが貼られました。
どうやら、何か処置を行うときは、スタッフの方が必ず声で知らせてくれるようです。
周りが見えない状況なので、これは大変ありがたいです。
『目の部分のシートを鋏みで切ります』
えっ。ハサミ?
眼の表面から、僅か数ミリの至近距離を、銀色の金属が通過していきます。
動いている鋏を、これ程間近に見るのは、多分生まれて初めてです。最初で最後にしたいものです。
しかし、こりはかなりヤバイ!思わず息が止まります。
とにかく、今は頭を動かさない事に、全勢力をつぎ込まなくてはなりません。
体全体、ガチガチに力が入ります。緊張の極地。まさに人生の分かれ道です。
微動だに出来ないこの状況では、宙に浮いた足が、いやがうえにも気になります。
いつしか、こたつMkUは、手渡されていた子犬くんを思いっきり握り締めていました。

いやー。この縫いぐるみ、LASIKの必需品。いやいや、まさしく命綱ですね。
エキシマレーザーの正規オプションにしたいくらいです。

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