ライダー復帰計画。
暗号名。暁の虎。

6年間もの、暗い沈黙。
長き雌伏の時を超え、我再び遥かな地平に鉄(クロガネ)の翼広げん。



桜舞い散る春の良き日。
我が家では本年、無事、年長さんに進級した息子(5歳)に続き、
娘(3歳)も晴れて幼稚園デビューを果しました。
ゆうくん、キリン組。あーたん、ひまわり組。
お二方とも、同じ幼稚園です。
それ自体は、まぁ、めでたいっちゃメデタイ事なのですが、
嬉しい反面、我が子のせいちょーに目を細める親のフトコロからは、
毎月毎月自動的に2人分の保育料7万数千円が、ひらひらと飛んで行きます。
飛んでいくワケです。否応無く。

2005年。4月某日。
天の時、地の利、人の和を完璧に無視した、
この史上最悪とも言えるタイミングで、
ワタクシしぶちょーは、
一家の主らしく、堂々と宣言したのでした。

おい。バイク買うぞ。文句あるか。

(…表現に一部事実と異なる点がございますが、総論としての
意思伝達事項に明確な誤りはございません)

『…』
料理の手を止め、嫁さんがゆっくりとこちらを振り返りました。
『…バイクが、欲しい?』
あっ、ああ。そうだ。バイクだ。
ワタクシしぶちょーは、何度もコクコクと頷きます。
多少腰が引けてはおりますが、それでも
この過酷な状況を考えれば、
一家の主に相応しい、毅然とした態度です。
『ふーん。バイクねぇ』
…。
粘りつくような時間がゆっくりと流れます。
嫁さんの手にしてる包丁が光を反射しながら、
左右にゆらゆら揺れています。
まさか、いきなり刺されるようなこつは無かろうとは思いますばってん、
冷たい汗が背中を流れ落ちよります。
無論、苛烈な拒否反応は予想済み。
罵詈雑言の嵐程度は覚悟の上。想定の範囲内です。
思い起こせば6年前。
XJR1300とCRM250ARの2台体制を堅持していたあの頃。
セピア色の写真の中で微笑む、幸せそうな自分の姿に
何度クチビルを噛み、涙したことか。
栄光の歴史を今再び、我が手に!
例え、血塗られた道(小遣い半分。昼は弁当持参)を歩もうとも、ワタシは必ず−
『そうねぇ。…良いわよ』
必ずや    
…あ?
『ん?』
…いや。あの。今何て?
『だからバイクでしょ?良いんじゃない?たまには気分転換も必要だし』
…。
ぶわっ。
その時っ!
大粒の涙が、ワタクシの両目から零れ落ちました。
ぼろぼろぼろぼろ。ぼろぼろ。
すっ、スマン、嫁よ。オレはお前のこと、ずっとずっと誤解していたあぁっっ!
『…何よ。その誤解ってーのは』
嫁は憮然とした表情から、一転、にこりと笑って。
『ただし。ひとつだけ条件があるの』
条件?あっ、ああ。良いとも。
ワタクシは、ささっと居住いを正しました。
きちんと正座し、この上なく真摯な口調で語りかけます。
イメージ的には、森本レオか田口トモロオでございます。
もちろん、中古で構わないさ。
何なら、この際車検無しの250ccでも
『ううん。違うの。お金の事は気にしないで。
バイクの種類も、あなたが好きので良いわ』
おおっ。おおおおっ!
戦神オーディンも照覧あれ!
この素晴らしき愛しの女神にプロージェット!
『でね。条件はね。私も乗れるバイクにして』
神々の盛大な祝福を受け華麗なダンスを踊っていた
ワタクシは、その一言でふと我に返りました。
私もって…。タンデム?
『ちーがーうっ。私も運転したいのっ』
…え。あ。でも、キミ、確か免許は普通四輪しか…。
『やぁね。正看(看護婦)も持ってるわよ』
…。
(まったく意味ねえぇぇぇぇっっ!!!@血を吐くような心の叫び)

悪逆非道な謀略により、
いきなり選択肢が50ccのスクーターに限られてしまった
ライダー復帰計画。暗号名 夕暮れのネコ。
運命は、どこまで残酷になれば気が済むのか。
ワタクシしぶちょーは、
想像を絶する苦難を前に、ただただ涙するしかありませんでした。



追記。

4月吉日。良く晴れた日曜日。
しぶちょー一家は、某フジグランへお買い物へと出かけました。
ささやかな食材と子供の為のレンタルビデオ。
絵に描いたような小市民の家族サービス。
平々凡々たるありふれた光景。
しかしそこには、かつて、しぶちょー.ザ.マジシャンと呼ばれたオトコの
狡猾な罠が張り巡らされていたのです。

帰り道。なにげにバイクショップに立ち寄ります。
怪訝そうな嫁さんに、終始笑顔を忘れず語りかけます。

さあ。どれが良い?
どれでも好きなのを選んでおくれ。
ああ、そんな。遠慮なんか無用さ。
なんせ、キミのバイクなんだから。


再び時は動き始めた。
マイ.バイク獲得のその日まで。
戦いは、まだ終わりはしない。





♪ エンディングテーマ: ヘッドライトテールライト






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